銭湯でみかんを食べる婆ぁ-2018ベスト、幸福城市
風俗街の端っこに、銭湯がある。
阪東橋の大通り沿いには、ソープが立ち並ぶ。薄暗い裏道も、風俗店がごちゃごちゃとしている。
その、細い路地沿いに、銭湯がある。
古い作りの銭湯だ。お湯も43度くらいで高めの設定だ。
水風呂がある。有難い、と思って入ると、べらぼうに冷たい。水道水をそのまんま注いでいるのだろうか。5秒と入っている事は出来ない。
シャワーは固定されていて、はずす事は出来ない。
銭湯で癒されたい女子は、まず、近寄りもしないだろう。そんな銭湯がある。
そもそも、いわゆる「女子」は、いない。
お客さんはよくておばちゃん、他は婆さんだ。
そして、多国籍だ。肌の色は黄色のグラデーション。
東南アジア系がこんな熱い湯につかる事ができるのか、と思ったが、彼女たちは体を洗うだけで、浴槽に入ることは、ほぼない。入っても、一瞬だ。
東アジア系は、熱い風呂につかる。
私は、更にだらだらと風呂につかる。
長風呂が大好きなのだ。
39度くらいのぬるいお湯に一時間くらいのんびりつかるのが一番好きなのだが、平熱が高いからか(37度近い。)熱い湯も耐える事が出来る。
熱い湯につかり、水を浴び、くつろいで、また湯につかり…と繰り返していた。
ふと気が付くと、韓国語で話しているおばちゃん達が、みかんを食べていた。
多分スタッフに見つかったら注意されるのだろうが、こんな小さな銭湯でみまわりなど、ない。野放しだ。いいな〜いいなぁ〜〜みかん食べたい〜
いちごもいいなぁ〜夏はスイカも〜などと妄想していたら、おばちゃん達は、さらにジップロックから、カットされた王林を取り出して、食べはじめた。
フリーダム〜
ここは日本か?細かい姑ルールにがんじがらめの、日本なのか?
ダメな人は、おそらく全く受け付けない環境だろう。だが、私は、妙にくつろいでしまう空間なのだ。
熱い湯につかりながら、いつかヨボヨボの婆さんになって一人銭湯に行き、誰とも話すこともなく一人みかんを食べたい、と思うほどには。
昭和のムード歌謡が流れる銭湯で、薄暗い路地の銭湯で、いつかを夢想するほどには。
去年は、なんか、私、369本も映画館で映画を観たみたいです。(他人事。)
お正月に数えていて、びっくりよ。暑いころは(私基準で)あまり観ていなかったのだけど、ゴールデンウィークまでと10月から12月がひどすぎた。
年間ベストは劇場公開作にしたいのだが、フィルメックスでみた「幸福城市」があまりにドストライクすぎたので、ポリシー曲げます。2018年の私のベスト映画は「幸福城市」です。
大体、2、3年に1本くらい、つまり千本くらい映画を観て1本あるかな〜くらいの確率で私的に完璧な映画があるのだが、そんな映画だった。
2056年の台北を舞台にして、主人公の壮年期、青年期、少年期を遡っていき、どの時代も、人生を変えるある一夜が描かれる。
ぽつりぽつりとあるネオンが人の息づかいを感じさせる、そんな寂れた裏町の物語だった。
私にはそれは、あの阪東橋の裏道の、てんてんと店の灯りがともっている、しんとした静かな通りを思いださせるものだった。
映画では非常に印象的に、昭和のムード歌謡的な曲が繰り返しかかっていた。そんなところも、また、よかった。
今年のフィルメックスは神がかっていて、素晴らしい作品ばかりだったが、一番好きなのは、全く幸せじゃない「幸福城市」。
劇場公開してくれないかな〜