いきおくれ女子いろいろウォッチ

映画の備忘録として

恋の残り香-1月に見た映画その2 詩人の恋

1月は18本ほど映画を見ました。

大当たり(鬼滅)、当たり7本、いいんじゃないでしょうか6本、そうなんですね4本って感じです。

「詩人の恋」はチラシから想像していた映画と全く違うものでしたが、とてもよかった。

チラシは、男性2人と女性1人のバストショットが3等分の3段になっていました。ベージュが基調の明るい色味のチラシでした。韓国映画なので、ホン サンス的な、おされ三角関係映画だと思って見に行きました。はっきり言って、あんま興味なかった(チラシのあらすじとか読まなかった。)のですが、主演がヤン イクチュンだし、とりあえず見とくべか、時間丁度いいし、程度で見に行きました。

男2人が女を取り合うコミカルな映画だと思って、大して期待していなかったんですよ。チラシの印象はそんな感じだったので。

以下、あらすじと感想。

 

かつて出版した詩集が文学賞を受賞したこともある詩人。今は非常勤講師として働きながら、同人会では詩を「美しいだけ。浮世離れしている。」と酷評され、生活は妻の稼ぎに頼る日々。子供を望む妻からは強引に迫られるが逃げ回り、妊活への協力を強いられる中、近所に出来たドーナツ屋のドーナツにはまって通い詰める日々。やがてドーナツ屋の店員 の青年と顔見知りになり、彼の家庭環境を知り、心の痛みを知り、心を通わせていく…

 

ドーナツ屋の店員は、最初は礼儀正しい、どこか憂いを秘めた青年として登場する。

対する詩人は、自堕落なぽよぽよのお腹にもかかわらず大好きなドーナツの箱を一人で抱えて貪り、ボサボサ頭でぽやんとしており、周囲からは大人の男としての責任感や自覚の無さを指摘されている。(が、逃げ回っている。)

詩人はある時偶然、ドーナツ屋の店員の家庭環境を知る。寝たきりの父、父にも子供にも思いやりも理解も示さないがさつな母、貧しい生活。そして、友達からも浮いている。

周りから理解されず、居場所が無く、心の奥底にどうしようもない虚しさを秘め、いっそ逃げてしまいたいのだがしがらみがそれを許さず、自暴自棄になることも出来ず、ただ苛立ちを募らせる孤独な日々。

おそらく詩人は、自らの苛立ちや孤独をドーナツ屋の店員に重ね、なんとかして手助けしたいと願う。そんな詩人を周囲は理解しない。そして詩人は、ドーナツ屋の店員にここではない、こんな田舎町ではないどこかへ逃げようと言うが、結局は拒まれてしまう。

やがて二人は離ればなれになり、月日は過ぎ、再会する。詩人は新しい詩集を出版し評価され、一児の父となっている。ドーナツ屋の店員は、新しい人生を歩みだしており、かつての孤独な青年ではなく、大人(になりかけ)の男になっていた。詩人もまた、自らの人生に向き合い、大人(になりかけ)の男になっていた。

そして、ラストシーン。これがとても良かった。

ドーナツ屋の店員と再会した後、柔らかな午後の陽射しが差し込む部屋で子供を見つめる詩人。そして一筋の涙をこぼす。

その一筋の涙に、ああ、あれは恋だったのたと、あの出会いの時、冬の陽射しの中の青年の美しい横顔に見惚れたのは確かに恋だったのだと、思った。

全てが過ぎ去り、最早青年期は終わり、そして終わりを迎えた恋の残り香を感じた。

 

昨年末にみた「燃ゆる女の肖像」も、ラストシーンが素晴らしかった。

この映画は、離島で貴族の娘エロイーズとその見合いのための肖像画を描く女流画家マリアンヌの恋の物語だ。

エロイーズは見合いに消極的で、肖像画を快く思っていないため、マリアンヌは盗み見るようにして、肖像画を描こうとするが上手くいかない。やがてエロイーズは肖像画を描くことを認め、二人は親密さを増していく。その過程が、二人の視線の交わりで表現されている。

やがて肖像画は完成し、二人はそれぞれの世界へ戻っていく。

最後に二人は劇場で再会するのだが、見合いで結婚し人妻となったエロイーズはマリアンヌに気が付かない。二人の視線は、二度と交わる事は無い。ただ、マリアンヌの視線のみがエロイーズを見つめる。その視線から、私達観客はマリアンヌの恋の終焉をみる。

恋の残り香は甘く苦く、余韻が続く。そんなラストシーンだった。

 

映画として、完成度という点では、圧倒的に「燃ゆる女の肖像」の方が上であると思う。映像の美しさ、構成、全てが上。

だが、ラストの切なさは私には甲乙つけがたいもので、どちらも素晴らしかった。

両方とも監督は女性で、男性の繊細さとは少し違う、女性らしい繊細な作品だった。

 

さて、「詩人の恋」のドーナツ屋の店員は、「藁にもすがる獣たち」で嬢の旦那を殺すDQNをやってました。全く違う雰囲気でしたが、どっちもよかったです。いい役者さんですね。

「藁にもすがる獣たち」は時系列が前後するので、そういうのが苦手な人は楽しめないかもしれないけど、役者がみんな芸達者でキャラが立っているので物語がわかりやすく、テンポがよくて、軽く楽しむのには丁度いい映画だったと思います。

 

美しい映画のない人生なんて味気ないものですが、サクッと後腐れなく楽しめる映画のない人生もまた、ひどくつまらないものになってしまうと思います。

 

いや〜、月並みですが、映画ってやっぱいいもんですね。