いきおくれ女子いろいろウォッチ

映画の備忘録として

2016年一番の映画

2016年もまた、素晴らしい映画をたくさん見る事が出来た。

良かった映画について全てにコメントをつけようとすると、結局ひとつもコメント出来ない事になるので、とりあえず、とびきり良かった映画のみあげる。

『光りの墓』、次点で『ホースマネー』。

2016年はアピチャッポン・イヤーといってもいいような年で、写美の個展や特集上映、展覧会での展示など盛り沢山の企画の中、この新作映画は格別だった。

非常に説明しずらい映画だが、とにかく豊かなイメージに圧倒される。夢か現か判然としない、ちょっと向こうそのまた向こうの世界を描いた作品だった。まるで目を開けたまま見ている夢のようで、私の視界には入らないが存在している世界ー曲がり角の向こう、扉の閉まったエレベーター、トンネルの外ーそんな、確かに存在するけれども私の視界に入らない不確かな風景が描かれている。驚きに満ちた作品だった。
そもそも物語のはじまりの『原因不明の眠り病の兵士達』というものからして、なんとも不思議なものだ。それを看病する女達の中にも、人の夢を読む事が出来る女がいたり、兵士達の眠り病について語る女達は既に死んだ姫君達であったりする。

これまで6本くらいアピチャッポン監督の作品を見ているが、どれも夢と現実の境界が曖昧だ。いくつかのエピソードが断片的に語られるのだが、生と死、眠りと覚醒が非常に曖昧で、死者と生者が語らい、眠り夢を見ているのか、覚醒して夢を見ているのか判然としない。

夢に傾き過ぎれば空想の度合いが大きくなり、現に傾き過ぎれば妄想の度合いが大きくなる。その間で、どちらにも傾き過ぎない、幻想的な世界を描く、ありそうで無い幻想怪奇映画を作ってくれる大好きな監督である。

写美の個展の一番はじめに展示されていた窓のビデオは、何年か前にやはり写美で見た作品だが、私はアピチャッポンの映画を見るたびにいつも連想してもう一度見たいと思っていた作品だった。何故かというのは、正直よくわからない。ただ、ビデオ作品の窓越しの視線や光の質感が、アピチャッポンの世界のはじまりの地点のように思えるのだ。

私にとって2016年は、アピチャッポン作品を堪能する事の出来た良き一年となった。