いきおくれ女子いろいろウォッチ

映画の備忘録として

我々は何故、死にゆく運命を生きるのか-2月にみた映画と2019年のベスト

タイトル決めて、書く映画も決まっていて、しかし、結論に至らず放置していたブログ…他の映画も加えつつ色々考えましたが、どうにも話がまとまりませんでした。

2月に見た映画の話ですよ。今、11月ですよ。どいうこと?

とりあえず、どうにかこの話をまとめたいです…

 

まず、2月に見た「ハッピーオールドイヤー」について、書きます。

この映画はタイのナワポン監督の作品です。ナワポン監督はTIFFで「マリーイズハッピー、マリーイズハッピー」を見て以来チェックしているのですが、今回初の日本劇場公開、待ちに待った劇場公開です。「ハッピーオールドイヤー」は、大阪アジアン映画祭で確かグランプリを受賞していたので、何かの特集上映で見ることが出来たら…と思っていたのですが、まさかの劇場公開!とても楽しみにしていたら、非常に良い作品でした。

しかし、タイ映画しかもナワポン監督の映画だからどうせ地味な映画(一昨年のTIFFで上映されたナワポン監督が撮ったBNK48のドキュメンタリーでは、ナワポン監督が女の子に「貴方の映画はうすらぼんやりしている!」みたいな事を言われていて、さてはお主ナワポン監督のファンだな!と笑ってしまった。)よく劇場公開したな…と思っていたら、人生がトキメクお片付けが出てきたので、日本ネタがあるからか、と納得しました。主演が「バッドジーニアス」の子、というのもあるかも。(タイ人の名前は難しくて覚える事が出来ません。チューレン(あだ名みたいなもの。日本と違ってオフィシャルでも通用する)じゃないと無理です。)

以下あらすじなど。

 

北欧へ留学しインテリアデザイナーとなったジーンは、自宅を改装して事務所にするため整理を始める。はじめは何も考えずにがんがんと物を捨てていくジーンだったが、友人からもらった誕生日プレゼントを捨てたところを友人本人に見咎められ、また、自分のプレゼントを兄が捨てているのを見て傷ついた事から、反省する。そして、借りっぱなしになっていた物やもらったプレゼントなどを、元の持ち主に返していく事にする。喜ばれたり、怒られたりしながら、いろいろな物と一緒に自分の気持ちや記憶を整理していく。

最後に留学する前に付き合っていた元恋人のサニーに借りていたビデオカメラが残る。サニーを捨てたジーンは直接返す事が出来ず、郵送するが受け取りを拒否されてしまったため、直接サニーへ返しにいく。

そして、サニーとその恋人と関わりながら、亡くなったサニーの母の思い出、家族の元から去っていった父の記憶に向き合い、家を、人生を整理していく。

 

実にナワポン監督らしい作品で、細かいエピソードが連なり、何ということはない、しかしかけがえのない記憶が描かれている。

それにしても実験映画とかいう訳でもないのに、あらすじ的なものを書いてもこれほど意味がない監督も珍しい。ナワポン監督の映画は、余白を楽しむ映画なのだと思う。

(同じように、細かいネタをガンガンぶっ込んでくるスタイルで、あらすじ語っても意味ない映画を作る阪元監督との違いはそこ。あれはノイズを楽しむ映画だと思う。)

 

一昨年はナワポン監督の「ダイ トゥモロー」を見た。これも、大阪アジアン映画祭で上映されて、一昨年FILMEXかTIFFの関連イベントで東京で上映されたので、見てきた。この作品は、それこそ余白を味わう映画だった。

事件や事故で亡くなる人の、亡くなる日の1日前を描いたエピソードが連なった映画だ。誰も次の日に自分が、相手が、誰かが 死ぬ事など夢にも思わず、変わらぬ日常が続いていくと疑いもせず、しかしある日突然終わりを告げる日常の物語。

一番はじめのエピソードでこの映画がどのような映画なのかが描かれる。

卒業式前日に女子大生4人がホテルに宿泊、夜中にそのうちの一人が事故に巻き込まれて死亡、と字幕がでる。そしてホテルの一室での女子大生たちの会話がはじまる。彼女達は誰かがこの数時間後に死んでしまう事は知らない。楽しそうに笑いさざめき、普通の1日を過ごしている。映画を見ている私達はこの中の誰かがこの後死んでしまう事を知っているが、それが誰なのかは知らない。ごくごく普通の、女子大生たちの楽しそうな会話。もちろん死の影など、一切無い。そして、そのエピソードは終わる。観客は、結局誰が死んでしまうのかわからないまま終わる。でも、その後で誰かが死んでしまう事は知っている。

その他のエピソードも恋人達の、親子の、兄弟の、誰かが死んでしまう前の日が淡々と描かれていく。

 

19年に劇場公開された「アマンダと僕」も、予期せね死を描いた作品だった。

ある日突然姉をテロで亡くしてしまったダヴィッドが、7歳になる姉の娘のアマンダを育てる、という物語だ。

映画の前半はアルバイトをして、恋に落ち、といった平和な日常生活が描かれている。ごく普通の日常。しかし、公園で待ち合わせをしてピクニックをするはずが、その公園で起こった無差別テロに巻き込まれることで全てが変わってしまう。ダヴィッドの姉は死亡、ダヴィッドは遅刻をしたため無事だったが恋人のレナは負傷してしまい、ピアノを弾くことができなくなってしまう。そして、レナはパリから去ってしまう。

大切なものを失い傷ついた人達が、それでも生きていかなくてはならず、それはとても辛い事なのだが、生きていくという事は喜びに出会う事でもあり、小さな日々の積み重ねがやがて傷を癒していく、美しい物語だった。

 

この作品は、18年TIFFのコンペでグランプリを取った。私はTIFFでは見なかった。

TIFFのコンペのヨーロッパ映画はつまんない(失礼)なんか気取っていて(申し訳ない)意識高いわりに大したことない(いやん)ハリボテのような作品が多い(ごめんなさい)ので舐めていたし、コンペで仏映画なら劇場公開されるじゃろ、と思って見なかったのだが、こんなにいい作品だったとは…

私の19年度ベストの作品だ。

同じ監督の「サマーフィーリング」もよかった。これはある日恋人が突然死してしまった男性と、恋人の妹が少しづつ人生を取り戻していく物語。

どちらの作品も夏を舞台にしており(アマンダはひと夏、サマーフィーリングは3回の夏)16mmの粒子が粗い画像が、柔らかな美しい夏の日々を、悲しみを秘めながらも隠しようもない生のきらめきを写していく 。

 

人は、いつか死ぬ。

では何故生きるのか、というのが難しくて、特に映画でその事を語るのはなかなか難しい。

 

で、4月の終わりに「ノマドランド」を見たのだが、この作品はこの「生きる」という事を、いかに死ぬかという事とあわせて描いた作品だったと思う。

実は、私は「ノマドランド」は、貧困問題を扱った社会派の映画だと思っていて、面倒くさいヤツかと思っていて気分が乗らなかったのだが、アカデミー賞で作品賞と監督賞と主演女優賞を取ったので、まあ、とりあえず見に行きますよね、オタクですから。で、予想していた映画とは全く違う、とてもいい作品だった。

私、あらすじをまとめるのが非常に苦手なので、ざっくり言うと、じじばばのオンザロードだった。

オンザロードと言ってもじじばばなので、この一瞬を生きる、という刹那的な感じではなく、この後すぐに死ぬかもしれないこの一瞬を生きる、我が人生に悔いなし、という映画だった。

作中に「ホームレスではなくハウスレス」というセリフがあったが、ハウスレスという生き方を選択したのであり、その状態に陥ったわけではない、というプライドを感じた。

なぜ生きるのかではなく、ただ生きる、という映画だったと思う。

 

それから、「戦場のメリークリスマス」を見た。

昔テレビで一回見たくらいなのであんま記憶になくて、なんかBL映画だと思っていて、大島渚特集とかでも見てませんでした。あまりいいイメージが無かった。

修復版を上映していたので何十年ぶりくらいに見たのだが、驚いた。これ、武士道の映画じゃないか!!こんな見事に武士道を映画化した作品ないんじゃないか?

(なお、ここで言っている武士道は、武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり、の方です。)

最後、セリアズがヨノイに情けをかける訳だが、あれこそが古典で描かれてきた男色である訳だ。そして、セリアズは見事に死んでのける。

映画冒頭の、なんでこんなエピソードからはじまるのか謎だった朝鮮軍属がオーストリア兵をレイプした事を咎められて割腹しきれず無様をさらす、のはこれとの対比のためだったのか、と思った。(違うの?)

ラストでハラ軍曹が「セリアズは天晴れな男だった。」みたいな感じで褒めていたけど、いや、あの死に様は天晴れだよね。素晴らしかったよ。泣きながら見ましたよ。爆音で見たいよ〜

この映画は、いかに死ぬか、の映画だった。

 

そして最後に。

今年のPFFはナワポン監督特集でした!!9月なのでまだ緊急事態宣言中だったけど、8月にワクチン完了してるしそろそろ東京行っちゃお〜と、久しぶりに半休を駆使して見てきました。

短編、中編作品集と全長編上映という夢のような企画。時間の関係で「ハッピーオールドイヤー」と「BNK48」は見ることが出来ませんでしたが、初見の「あの店長」と「フリーランス」を見ることができました。

まとめて作品を見て、記憶や想いをつづる作品、人が無造作に死ぬ作品を作る人だな、と思いました。カムイシステムの人です。だから、好きなのかもしれない。

(カムイシステムとは。昔、私が頭の悪い中学生だった頃に図書室で発見した法則です。

中学校の図書室には、マンガは「のらくろ」と「カムイ外伝」しかありませんでした。頭の悪い中学生だった私は、図書室で時間を潰す時にマンガを選んだのですが、「カムイ外伝」に衝撃を受けました。人がサクっと死ぬのです。盛り上がりもせず、ぽろっと死んでいくのです。なんでそこで死ぬの?ってところで重要人物と思っていた人が無造作に死にます。初めての体験でした。

以降、見せ場も無く、盛り上がらず、淡々と人が死ぬ作品をカムイシステムと呼んでいます。最近の大作邦画やハリウッド映画ではまずありませんね。)

 

人は、いつか死ぬ。自分では何一つ選ぶ事は出来ない。せめて悔いなく逝けるよう、生き抜くしか出来ない。

今日も生き抜こう。

(畜生、こんな事言ったら、薄汚くハゲ散らかしちまうんじゃないか?)

 

やっと書けた…書き終わったよ…